
1 むち打ちとは?
(1) むちうちとは、骨折や脱臼のない頚部や脊柱の軟部組織の損傷です。頚椎捻挫や頚部挫傷、外傷性頚部症候群、外傷性神経根症などと診断されます。
むちうち症は、自動車の衝突などを起因として、頚椎に強い負荷がかかることにより起こる様々な症状の総称です。
(2) むちうちの名称は、強い衝撃によって頚部から頭部はムチの軌跡を追うようにしなるため、この名称で呼ばれるようになったとされています。
頭部の重さは体重の約10%とされており、男性が扱う13ポンドのボーリング球に相当します。
これを細い首で支えているわけですから、座っている状態で強い衝撃が加わると、頭部を支えようとする頚椎にかなり強い負荷がかかることは、容易に想像できます。
2 むち打ちの症状
(1) むちうちは首が振られて強い負荷がかかることで発生します。
そのため、次のような症状が多く発生します。
- ① 首周辺の痛みや違和感
- ② 腕や手指の痛みやしびれ
- ③ 頭痛
- ④ 吐き気
- ⑤ 耳鳴り
- ⑥ めまい
(2) むちうち症は後からでてきます。
むちうち症の特徴の1つに、事故直後に痛みや不調を感じにくく、後から症状を感じ始めるというものがあります。
これは事故直後に脳内が興奮状態となることで、アドレナリンやβエンドルフィンが分泌されることで、痛みや症状を感じにくくさせる仕組みに起因するとされています。
つまり、症状としては感じていないものの、起こることは起こっている可能性があるということになります。
事故後、数週間以上たってから症状を訴えたものの、期間が空きすぎていたために交通事故との因果関係を証明できないケースもあります。
(3) むちうち症は、正式な傷病名ではありません。「ぎっくり腰」や「四十肩」のような一般的な俗称として取り扱われます。
交通事故ではその受傷起点をもとに、医学的根拠をもって「頚椎捻挫」「頚部挫傷」「外傷性頚部症候群」などと医師が診断することにより、初めて傷病として取り扱われます。
逆に、医療機関を受診せずに「むち打ち症」として治療していても、傷病として取り扱われない可能性もあり、後々の自賠責保険への請求に不利益を被る可能性もあるため注意が必要です。
事故後、肩が凝るなどの軽い症状はあったものの、後で症状がひどくなることもあるため、事故後は早めに医療機関を受診することをお勧めします。
3 むち打ちの治療の流れ
治療の流れは以下の通りです。
(1) 炎症期
初期の症状に対する治療として大切なのは「消炎と沈痛」とされています。
アイシングや投薬を行うことで、血管を収縮させ炎症物質の拡散を防ぐほか、痛みを伝える神経の反応を遅らせる効果を期待します。
この時期は逆に温めてしまうと症状の悪化を招くため注意が必要です。
(2) 増殖期(回復期)
頚椎周囲の損傷した組織が回復に向かい、細胞が増殖していく時期です。
回復には栄養が必要であり、血液がその栄養を運びます。
そのため温熱療法が有効とされ、比較的表面の血流を促す物理療法から、組織の奥に熱を伝えるレーザー治療や超音波治療も有効とされています。
この時期から痛みの範囲を見ながら徐々に動きを出していくリハビリテーションを開始していきます。
(3) 成熟期(活動期)
再生した組織を強くすることで、損傷した部位の補強を目指します。
局所的かつ漸進的な運動を取り入れ、関節の可動性や筋力の向上を図ることで、受傷前の生活や仕事の状況に合わせたリハビリテーションを行います。
この時期は適切な運動量が必要であり、過度な運動は疼痛を惹起させるほか、逆に安静をとりすぎると循環障害を起こし、これが新たな疼痛の原因となってしまうこともあります。
(4) むち打ち症の症状改善の期間は?
順調に回復が進めば、比較的短い期間で症状が改善する方もいらっしゃいます。
しかし、仕事をしながら治療に取り組む方や頻回に通院できない方については、長期間治療を要する方もいらっしゃいます。
当然、交通事故の状況、受傷の程度によって、治療期間に幅があることも事実です。
交通事故治療は初期治療が非常に大切だといわれています。最初はできるだけ頻回に受診し、症状のコントロールに努めることをお勧めしています。
4 むち打ちの後遺障害認定について
むちうちの治療を継続したにもかかわらず完治せず、後遺障害が残った場合は「自賠責保険後遺障害等級認定」を受けて、後遺障害に基づく損害を請求することができます。
(1) むち打ち症で後遺障害が認定される場合、次のような後遺障害認定の可能性があります。
- ① 局部に神経症状を残すもの(14級9号)
- ② 局部に頑固な神経症状を残すもの(12級13号)
(2) むち打ち症では、次のような事案の場合に後遺障害が認定されやすい傾向があります。
- ① 車両の損傷が激しい事故の場合
- ② 通院日数が多い
- ③ 痛みだけでなくしびれがある
- ④ 左右で症状に差がある
- ⑤ MRI画像で異常がある。
- ⑥ 神経学的所見(腱反射、スパーリングテスト、ジャクソンテストなど)で異常がある。)
5 むち打ちの慰謝料の種類について
(1) 傷害慰謝料
傷害慰謝料は、原則として入通院期間を基礎として算定されるものです。
概ね弁護士基準では、次のとおりとなります。
- ① 通院1ヶ月 19万円
- ② 通院3ヶ月 53万円
- ③ 通院6ヶ月 89万円
- ④ 通院10ヶ月 113万円
(2) 後遺障害慰謝料
認定された後遺障害の等級により、慰謝料額は異なります。
弁護士基準では、次のとおりとなります。
- ① 14級9号 110万円
- ② 12級13号 290万円
6 むち打ち症の場合に請求できる損害賠償とは?
- (1) 治療費
- (2) 通院交通費
- (3) 休業損害
- (4) 傷害慰謝料
- (5) 後遺障害慰謝料
- (6) 後遺障害逸失利益
などです。
7 弁護士ができること
(1) 適正な損害賠償額の請求
保険会社が提示する賠償額は、弁護士基準(裁判基準)よりも低いことが多いです。 弁護士が介入することで、以下のような損害項目について増額交渉が可能です。
- ① 治療費・交通費などの実費
- ② 慰謝料(通院慰謝料・後遺障害慰謝料)
- ③ 休業損害
- ④ 後遺障害逸失利益
(2) 後遺障害等級の認定サポート
むち打ち症は、後遺障害等級(14級9号や12級13号)に認定される可能性があります。
認定を受けることで賠償額が大きく変わるため、以下のサポートが重要です。
- ① 適切な受診
- ② 適切な医証の収集(MRI画像、診断書など)
- ③ 後遺障害診断書の内容チェック
- ④ 異議申立ての支援(非該当となった場合)
(3) 相手方保険会社との交渉
被害者ご本人が治療を継続しながら、直接保険会社と交渉するのは精神的・時間的負担が大きいものです。
弁護士が代理人として交渉することで、書類作成・提出の煩雑さを軽減するとともに、不利な条件での示談を防ぐことができます。
相手方からの強い態度での交渉やプレッシャーを回避して、治療に専念することができます。
(4) 訴訟提起も含めた対応
交渉で解決しない場合、訴訟も視野に入れて対応可能です。
弁護士がついていれば、当初の段階から、裁判を見据えた証拠収集や主張が可能になります。
まずは、当事務所にご相談ください。