
1 脊椎損傷の症状
脊髄損傷は、脊椎の骨折や脱臼によって脊髄が圧迫・損傷されることで発生し、損傷の部位や程度によって運動機能や感覚障害が生じます。
頚髄を損傷すると四肢麻痺、胸髄や腰髄を損傷すると下半身の麻痺が起こることが多くあります。
頚髄損傷は、特に高速走行中の自動車の衝突や転倒事故で発生する可能性が高いものです。
2 脊椎損傷の診断について
交通事故における「脊髄損傷」は、次のとおり診断されます。
(1) 画像所見
脊椎に骨折や脱臼がある場合には、レントゲン(単純XP)によって診断します。
脊椎だけでなく、脊髄の損傷が疑われる場合には、CTやMRIにより診断します。
(2) 神経学的検査
画像による診断に加え、触診や問診により知覚障害(違和感やしびれ感)を検査したり、力の入り具合を検査したり、腱反射の検査(ハンマーで神経を叩いて、自分の意思とは関係なく反射的に筋が収縮するかを確かめる検査)をしたりして、脊髄の損傷による症状の程度を確認します。
(3) その他の検査
筋電図や、脳・脊髄誘発電位という検査手法を用いて、神経の伝達に障害が発生しているか否かを診断することがあります。
3 脊椎損傷の治療について
脊髄は一度損傷すると回復が難しく、治療には手術やリハビリが必要となります。
損傷の程度によっては、長期間の介護を要するケースもあります。
また、交通事故による脊髄損傷は、被害者の生活に深刻な影響を及ぼすため、加害者との示談交渉や損害賠償請求が特に重要です。
逸失利益の算定、将来の治療費・介護費、将来の装具代、福祉車両購入費、家屋改造費など請求する損害が多岐にわたります。
4 脊椎損傷の後遺障害認定について
脊椎損傷で認定される可能性のある自賠責保険後遺障害は次のとおりです。
1級:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
自賠責保険金額 4000万円
2級:神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
自賠責保険金額 3000万円
3級: 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
自賠責保険金額 2219万円
5級: 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
自賠責保険金額 1574万円
7級: 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
自賠責保険金額 1051万円
9級:神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
自賠責保険金額 616万円
12級:局部に頑固な神経症状を残すもの
自賠責保険金額 224万円
このように認定の基準が、非常にわかりにくいため、弁護士が医療記録等を精査して検討し、主張することが重要になります。
弁護士が交渉することで賠償額を増額できる可能性が高いといえます
5 脊椎損傷での賠償の種類について
(1) 脊髄損傷では次のような損害賠償請求ができます。
- ① 治療関係費 医療費、通院交通費、入院雑費、付添看護費
- ② 休業損害 休職中の減収分
- ③ 入通院慰謝料
- ③ 後遺障害慰謝料
- ④ 後遺障害逸失利益 障害によって将来的に得られたであろう収入の喪失分
(2) 後遺障害1~2級などでは、(1)の請求に加えて次のような損害賠償請求も可能です。
- ① 症状固定後の治療費
- ② 将来介護費
- ③ 家屋改造費
- ④ 自動車改造費
6 弁護士ができること
脊椎損傷を負った被害者の代理人弁護士が果たす役割は非常に重要です。
(1) 早期受任と相手方保険会社対応の代理
被害者がのが重大な場合、被害者本人が的確に判断して行動することが難しいケースが多くあります。そのため、早期に受任し、相手方任意保険会社との交渉窓口になり、被害者に不利な提示を断って、少しでも有利な方向に交渉していくことが大切です。
医療費の一時支払い(仮渡金)や入通院交通費、介護費用などの立替費用について速やかに請求を進めます。
(2) 医療記録・診断書・後遺障害診断書の収集と検討
弁護士は、傷病名・症状・治療経過・検査結果(MRI・CT等)を含む医療記録を収集し、治療内容と後遺障害の可能性を確認します。
必要な場合は、主治医と面談するなどして、後遺障害診断書の記載内容について、被害者の訴える症状が記載されているかなどについて打ち合わせます。
(3) 後遺障害等級の申請と異議申立て
自賠責保険に対する後遺障害等級認定の申請(被害者請求または事前認定)を行います。
脊椎損傷では神経系統の麻痺や歩行障害、排尿障害などが問題になることが多く、等級は1級〜12級にわたる可能性があります(重篤な場合は1級または2級)。
不適切な等級認定がなされた場合は、異議申立て(再請求)や紛争処理機構への申請も検討します。
(4) 将来介護・看護費用等の請求
高位頚髄損傷等で四肢麻痺がある場合、将来の介護費用・住宅改造費用・自動車改造費用などの必要性について精査した上、最大限の損害額を計上して請求します。
(5) 職業復帰が困難な場合、逸失利益も高額になるため、計算根拠を詳細に精査し、必要に応じて経済的専門家の意見を取り入れて算定します。
(6) 示談交渉・訴訟対応
相手方保険会社と示談交渉を行い、適正な損害賠償額を請求します。
示談での解決が難しい場合には、速やかに訴訟提起を行います。
訴訟においては、医学的知見の主張・立証、必要に応じた医師の証人尋問、日常生活における制限の具体的主張(介護の実態等)などの主張立証を行います。
(7) 当事務所が代理をした事例では、20歳男性後遺障害1級認定の事案で、自賠責金額は4000万円でしたが、逸失利益を算定し、将来の治療費・介護費、将来の装具代、福祉車両購入費、家屋改造費などについて詳細に主張した結果、裁判所にて損害額総額約2億円が認定された事案があります。
まずは、当事務所にご相談ください。